北原みのり「『痴漢えん罪』のバイアス」〈週刊朝日〉《公式》

大塚和成です!!


北原みのり「『痴漢えん罪』のバイアス」〈週刊朝日〉

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は「痴漢えん罪」と「#MeToo」の根底にある女性差別について。


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「私、失敗しないので」の「ドクターX」が好きなので、米倉涼子主演ドラマ「リーガルV」を心待ちにしていた。法曹界に米倉様が小気味よく切り込む物語だろう!と期待していた一視聴者として言わせてほしい。残酷なほど無残。大門未知子に、謝ってほしい。

 テーマは「痴漢えん罪」。満員電車で男が女子大学生に「痴漢」と訴えられ、逮捕される。米倉は男性の弁護で、女性がキャバクラに勤めており、金目当てだったことを明らかにしていく。

 見ながら喉が渇いて仕方なかった。コンゴ民主共和国のムクウェゲ医師や、ISの性暴力を告発したナディアさんのノーベル平和賞受賞決定後の世界とは思えなかった。2018年の国際水準からほど遠いお粗末さだと、震えた。

 痴漢えん罪などどうでもいい、と言いたいのではない。えん罪は日本の警察の重要な問題だ。それでも、こと痴漢という性暴力問題で、「男vs.嘘つき女」という対立を作り、女の嘘一つで男の人生が壊されるという前提で性犯罪を描くとは、いったい、どういう志なのだろう。“キャバクラで働く女性”=“性暴力被害者ではない”という偏見の再生産は、いったい、どういう無知なのだろう。

 たかがドラマ、たかがエンタメだ。だけどそれは、大いなる無意識でもある。「彼女は嘘をついてる」「男に恨みがあるのだ」「彼女は金をほしいだけ」……声をあげた性暴力被害者をそのように叩いてきた私たちの国でゴールデンタイムで見るに相応しいドラマとも言える。被害者の声に向き合い、性暴力根絶に取り組もうと動きはじめている国際社会に、私たちは全くついていけてないのだ。

 日本では#MeTooが盛り上がらない、と言われてきた。韓国や台湾の盛り上がりと比べると、ほぼ沈黙に近い。その背景には、女性に対する厳しさがあるのだろう。性暴力被害者の痛みより、男性容疑者の人生が破滅することへの同情が強く表象され、「男女平等」の皮を被った女性嫌悪が根深い。「減るもんじゃない」のに、男の「ちょっとしたいたずら心」「ありのままの本能」(それらを笑っていなすのが女の力量と考えられてきた)を告発する女を許さない事例など、今年に入ってからでも、いくらでもある。

 語るのはつらいが、なかったことにはできない。それにこれは、私だけの問題ではない。痛みながらも明らかにしていこうとする女性たちの姿が#MeTooだ。言うまでもなく91年に発せられた元「慰安婦」女性たちの声は#MeTooそのものだった。ムクウェゲ医師もISの被害者の女性たちも、「慰安婦」女性たちと出会ってきた。今回のノーベル平和賞は、「慰安婦」女性たちの声が築き上げた先にあるものだとも言える。その声を無視してきた結果がここ。女の嘘一つで俺は破滅する、という日本の男の恐怖は、もしかしたら強い罪悪感の裏返しなのかもしれない。その罪悪感から男性たちが解放されるためにも、私たちにも、#MeTooは必要だ。

 何にしても、米倉さんには、未知子に早く戻ってほしいと思う。

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